"Went the Day Well?" UK版BD

"Went the Day Well?"は、1942年のイギリス映画で、
前回取り上げた映画『鷲は舞いおりた』、およびその原作であるジャック・ヒギンズの小説『鷲は舞い降りた』の元になった、としばしば言われる作品です。
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私自身、『鷲』との関連でこの映画に興味を持ったわけですが、
それとは無関係に、"Went the Day Well?"は今見ても十分面白い映画です。


基本設定はこんな感じです:

- 第二次大戦中、イギリスのとある村に演習目的でやって来たイギリス軍の一団は、実は偽装したドイツ軍だった。
その目的は、間もなく始まるドイツ軍の英国本土上陸作戦を有利に進めるための事前工作としてこの村を占拠し、連絡網を遮断することだ。
いくつかの出来事から彼らの正体に気づいた女性が、村で信頼を集めているウィルスフォード(レスリー・バンクス)に相談するが、彼はドイツのスパイだった。
ウィルスフォードから連絡を受けたドイツ軍はほぼ全ての村人を教会に監禁し、電話交換手などその場にいなければならない者には監視を付け、村はいつもどうり平穏であるように見せようとする。
村人の方は何とかこの事態を外部に連絡しようと画策するのだが、彼らは一緒に監禁されているウィルスフォードが敵側の人間だということを知らない…

原作はグレアム・グリーンですが、小説があるのか、映画のためにオリジナルのストーリーを提供したのか、私にはわかりません。


この映画は、日本で公開されたことはないようです。
戦時中は「敵国」の宣伝映画ですし、戦後になっても日本で有名なスターが出ているわけでもないので輸入する理由もなかったのでしょう。

しかし、イギリスではちょっとした古典/名作の扱いを受けているらしく、
2010年にはBFIがリストア処理を施した上で劇場公開もしています。

その時の予告編こちら:

このリストア版マスターを使ったUK版BDを最近入手しました。


パッケージ
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封入物は何もありません。


ディスク仕様

リージョンコード B
時間: 93分
アスペクト比: 1.66:1
音声: 英語 LPCM 2.0 モノ
字幕: 聴覚障害者用英語


メニュー
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メニュー画面は一見静止画のようですが白黒の人物の部分がわずかに動く動画になっています。

場面選択
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特典
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- 短編映画 "Yellow Caesar" (23分)
"Went the Day Well?"と同じアルベルト・カヴァルカンティ監督(Alberto Cavalcanti 、ブラジル出身)による、ムッソリーニをおちょくった伝記風プロパガンダ映画です。
大部分は本人のニュース映像ですが一部スタジオで作った映像と思われるものが混在しています。

- BBCラジオ3 「1940年代のイギリス映画 - 第1回: Went the Day Well?」 (14分、オリジナル放送日: 2010-09-13)
ジャーナリストのサイモン・ヘファー(Simon Heffer)による解説です。
"Went the Day Well?"が作られた頃のイギリス映画の状況や、この映画に見ることの出来るイギリスの階級社会などについて語っています。
元がラジオ番組なので、画面にはポスターがずっと表示されています。


プロパガンダ目的の娯楽映画

解説によると、この映画が企画された時点ではドイツのイギリス本土上陸は現実的な脅威だったので、国民の防衛意識の向上を図るためのプロパガンダ映画として作られたが、「公開された時点ではその危機は既に現実味を失っていた」のだそうです。
BDのカバーにも"Propagandist entertainment"と書かれているのですが、
いま見るとプロパガンダ臭はあまり感じず、単純に娯楽映画として楽しめます。

ドイツ兵の描き方にしても、もちろん「敵」であり「悪役」なので、不気味さや残酷さは演出されていますが、この程度の描写は戦後のハリウッド映画にもあるでしょう。
(第二次大戦ものではありませんが、例えば『ファイヤーフォックス』における「悪の帝国ソ連」の描写などに比べれば、おとなしいものです。
あ、『ファイヤーフォックス』は私の好きな映画の一つです。念のため。)

まだ正体がばれていない段階で、トラックの荷台を勝手に覗いた少年を兵士が折檻する場面があり、ここでは明らかに残忍さが強調されていますが、それ以外は特に非人間性を強調した描写はないです。
(民間人を殺すだけで十分残虐だ、という意見もあるでしょうが。)

私はむしろ「国土・国民同胞を守るために命がけで戦う」ということを当然の「正義」として描く、
その迷いの無さに最もプロパガンダ性を感じます。
村人にも結構死傷者は出るんですが、最終的には皆「英雄」として称えられます。
それが映画を楽しむ邪魔にはなっていませんが、なんか無邪気だなあ、とも思いました。
『地獄の黙示録』公開当時のインタビューで、反戦的な要素を全く無しに戦争映画を作るのは現代では不可能だ、とコッポラが言っていたのを思い出しました。


『鷲は舞い降りた』との比較

戦時中に作られたにも関わらず、この映画はドイツに勝利した戦後からの回想として語られます。
映画は、一人の村人がカメラに向かって語りかけるところから始まります。
「あなたがここへ来られたのは、この墓が目当てなんでしょう?
イギリスの教会にドイツ人の墓があるなんて、おかしな話ですからねえ」

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このプロローグで、ドイツ軍の侵攻があった、そしてそれが失敗に終わった、という大筋は観客に知らされてしまいます。そして
「戦争が終わるまでは一切語られなかったことですけどね。
あれは1942年、聖霊降臨祭の週末でした…」

と、本筋に繋がります。

一方、小説『鷲は舞い降りた』のプロローグでは、ヒギンズが訪れた村で、ドイツ人の名前が刻まれた墓を目にし、その場にいた村人からそれが「チャーチルを誘拐しに来たドイツ兵たち」のものだと教えられ、取材を開始した、という経緯が語られています。

"Went the Day Well?"はイギリス国内ではかなり良く知られた映画のようですから、ヒギンズがここから着想を得た、ということは大いにありそうなことです。

しかし、一部で言われているような「盗作」には当たらないと思います。
「偽装したドイツ兵の一団がイギリスの村を占拠する」という共通点は明らかですが、
『鷲』の独自性もまた強いからです。

例えば、「黒澤の『用心棒』の西部劇化」であれば、それが『荒野の用心棒』のようなものになるだろう、ということはある程度想像ができます。
(『荒野の用心棒』は私の好きな映画の一つです。念のため。)
しかし「"Went the Day Well?"を元に何か書いてみろ」と言われて、『鷲』のような物語を思いつく人はそう滅多にはいないでしょう。

登場人物にもこれと言って共通点はありません。
村の一員として信頼されていながら実はドイツの協力者、という点でウィルスフォードとグレイは似たような立場にありますが、人物像も、物語の中での行動も、全く異なります。


最後に題名について。
オープニング・クレジットに続いて下記のテキストが表示されます:
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「今日は良い日でしたか?
死んでしまった私たちには知りようがありません。
しかし、どんな日であったにせよ、あなたがたには自由があります。
私たちはそのために死んだのです。」


[2013-08-09 追記シネシャモ日記というブログで、本作について不勉強な私が知らなかったことまで書かれておりますので、一読をお薦めします。]

[2018-10-07: 商品リンク貼り直し]


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