ジョン・J・ラム『嘆きのテディベア事件』



そこそこ面白いのですが、個人的な好き嫌いで言うと、これは嫌いです。

中身はあまりなく、『署長マクミラン』あたりの、昔のアメリカのTV番組の一話分くらいです。面白さもその程度ですね。

なのでこれから書くことは殆ど悪口です。もしこの小説が好きで、誉めている文章を読みたい、という方であれば気分を害される可能性が高いので、これ以上読まないほうが良いでしょう。

基本設定は東京創元社のページを見ていただくとして。
「テディベア大好き元刑事と愛妻のおしどり探偵シリーズ第一弾」という宣伝文句と、
表紙のイラストに惹かれて買ってしまったのですが、
1.テディベア好きが読んで共感するような要素はとりたててない
2.「おしどり探偵」というが妻は推理には参加していない
と、売りの要素二ついずれも空振り。

1.は、主人公ブラッドの妻アシュがアマチュアのテディベア作家でかつコレクター、ブラッドはそれに影響されたテディベア好き、ということと、希少価値のあるテディベアがマクガフィンとして使われる、というだけです。
読んでいて「こいつらは本当にテディベアが好きなんだなあ」と感じさせるようなことはありませんでした。

2.については、この本の解説で杉江松恋という人が、妻がただのお飾りでないのがいい、と書いていますが私にはただのお飾りにしか感じられません。彼女は夫の捜査に協力はしますが具体的な貢献はしていません。「君はここで待っていろ」と家に置いて行かれることも多いですし。
むしろ、非公式に協力している保安官助手の女性や、ブラッドが「元ロシアのスパイ」と決め付けている怪しげな住人などの方がパートナーとして有意義に機能しています。

調査中、ある人物に夫婦揃って銃を突きつけられて脅される場面で、ブラッドがアシュに、自分が相手をひきつけている間に逃げろ、と言うのに対し「私があなただけ置いて逃げるなんて本気で考えてるの?」と逆らって言い争いが始まり、脅している方がいい加減にしろと怒鳴る、などという場面では本当に苛立ちます。私はこの場面で決定的に「あ、この小説嫌いだ」になりました。

作中ブラッドはアシュがいかに素晴らしい女性かということを繰り返し言うのですが、なんか高齢夫婦のいちゃつきを見せられてもウンザリするだけです。

『署長マクミラン』も主人公夫婦がずいぶんいちゃついていましたが、あれは見ていて楽しかったんですけどね。描写がユーモラスだったからなのか、役者(吹替え声優を含む)の魅力なのか。

主人公は元刑事で、この小説自体がTVドラマ風なのに、TVの刑事ドラマの非現実的な描写が大嫌いだ、と言っています。
彼のTVドラマ批判には同意できる部分がかなりあるのですが、しかし、自分は現実を知っているからこういう行動を採るんだ、という部分には疑問を感じます。
例えば、TVドラマみたいに薬莢から使い物になる指紋が採れるなんてことは実際には滅多にないから、と証拠の薬莢を素手で拾う。たとえそのとうりだとしても僅かな可能性を自分からゼロにするのは馬鹿げています。(そもそも自分の指紋が付くことはなぜ気にしないのでしょうか?)

確実な証拠が揃わなくとも、こいつがこういう行動を採ったに違いないと確信したら、本人を問い詰めてハッタリかまして白状させてしまう、というやり方も私にとっては好感度低いですね。

私がこの小説を嫌いな理由のかなりの部分は、これがブラッドの一人称で書かれていることから来ているような気がします。
この人物の世界観というか価値観というか、そういうものがダラダラと書かれているのにつき合わされているような。(コメントを許可していない個人ブログを読んでいるような?)
三人称であれば読者の想像にまかされていたであろうことまで書かれているから、何となく自己陶酔や自己弁護に感じられてしまう。

このあたりは、キザな描写の多い「ハードボイルド」系作品に通じるところがあります。この作品はスタイルにしろ主人公の人物像にしろ「ハードボイルド」とは程遠いのですが、不思議と共通するものを感じます。

映画や音楽などの作品名や人名をやたらと引き合いに出すのも自分の趣味をひけらかしているようで、私は嫌いです。(今にもロッド・サーリングが出てきて『トワイライト・ゾーン』のイントロを喋りだしそうだ、とか。)
他の部分でも本人は気の利いたユーモアのつもりなのでしょうが、表現がいちいち大げさで鬱陶しい。

結局この小説は、ミステリとしては大して価値がないので、主人公夫婦のキャラクターを気に入るかどうか、ということに尽きると思います。

私はこの作家の作品は、少なくともこのシリーズは、もう読むつもりはありません。


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創元推理文庫 ジョン・J.ラム 阿尾正子 東京創元社発行年月:2011年04月 ページ数:377p


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