横溝正史作品の誤植等の疑い

昨年、「横溝正史 『悪魔が来りて笛を吹く』の誤植について
という記事を書いたことがあります。

私はこれまであまり横溝正史作品を読んでいなかったので、
昨年は意識して角川書店発売のKobo電子書籍版で
横溝作品を20冊ほど読んだのですが、
前記の記事以降に読んだものの中にも気がかりな部分がいろいろとあったので、
ここでまとめておきます。

(なお、引用文ではルビなどは付けられませんし、また、
ネタバレ防止のため一部伏字にしてありますので、
原文と正確には一致していない場合があります。)


『金田一耕助ファイル6 人面瘡


「人面瘡」「一」の比較的始めの方
奇岩奇樹が直昼のような鮮やかさで

昼」は「昼」の誤植でしょう。

「人面瘡」『不死蝶』にも収録されていますが、
そちらの版ではここは「昼」になっています。


『金田一耕助ファイル13 三つ首塔


第一章の中の「くちなしの花」という節
警部の制服をきた人物がふたりの私服をしたがえて

この「警部の制服」は「警察の制服」の誤りではないでしょうか?

この文章は音禰という女性の手記として書かれているので、
この女性の素性を考えると、制服を見ただけで警部という階級まで見て取れる、とは考えにくいです。

もちろん、この手記は彼が警部だと知った後から書かれているので、
全くおかしいとも言えないのですが、その直後に
と、差し出した名刺をみると、そのひとは、警視庁捜査一課の等々力という警部らしかった。

とあるので、最初に見た時は「警察の制服を着た人」という認識だったのが、
名刺を見ることで「警部」だとわかった、という描写の方が自然に思えます。

書いているのは素人なのだから、多少冗長なところがあっても不自然ではない、
とも言えるのですが、どうも気になります。


『金田一耕助ファイル17 仮面舞踏会


第十二章 考古学問答
そこは飛鳥忠煕のいわゆる den' すなわち洞穴である。

このシングルクォート「'」は読点「、」であるべきだと思います。
(このブログは横書きなのでわかりにくいと思いますが、
縦書きだと、いかにも読み取り時に誤変換がありそうな部分です。)


第十四章第二十二章

これらの中で「アタッシュ・ケース」という表現が出てきます。

本来「アタッシ」が正しいとはいえ、
日本では「アタッシ」という誤用の方がむしろ一般的なくらいなので、
これだけなら、元々こう書かれていてもおかしくはないのかもしれません。

しかし一方で、同じ作者の『病院坂の首縊りの家』では
「アタッシ」と書かれています。
下巻・第二部「第二編 直吉二度の奇禍に怯えること」「二」

もちろん、作者が『仮面舞踏会』の頃は「アタッシ」だと思っていたが
『病院坂』を書く頃には「アタッシ」が正しいと知ったので表現が違っている、
というだけのことかもしれませんが、
いずれかが誤植である可能性もあると思います。


『金田一耕助ファイル8 迷路荘の惨劇


第二章 抜け穴から消えた男
に出て来る電報の文に
スグ メイロソウヘオイデ オコウ スヘン

という部分があります。
「御出でを請う」であれば「オコウ」は「ヲコウ」ではないのか、ということが一つ。

もう一つは「スヘン」です。
これは略号だと思うのですが、そのような文例が見つかりませんでした。

すぐに返事をくれ、というような意味なら、このj時代ならむしろ
「至急連絡されたし」というような文言を使うのではないか、とも思いますし、
そういう意味の略語としては「ウナヘン」がよく使われたらしいです。

もっとも、この電報の件についてはあまり自信がありません。
自分の無知をさらけ出しているだけのような気もします。


『金田一耕助ファイル16 悪魔の百唇譜


(ナツ子のセリフ)
でも、こんだみたいなことがあると気になるでしょ。

「こんだ」「こんど」の訛りだとすれば別におかしくはありませんが、
このナツ子という人物のセリフには他にはこれといって訛りが見えないので、
ひょっとしたら誤植ではなかという疑いが残りました。


(冒頭)
 一同の話の終わるのを待って等々力警部が発言した。
「はあ」
「ここに**秘蔵の『百唇譜』があるんです。これをみんなで検討しようといってるところへあなたがやってこられたんです。」

これではまるで「はあ」と言っているのが等々力警部のようですが、
この後に続く会話を見れば、
「はあ」と言っているのは金田一で、
「ここに」以下の発言が等々力であるのは疑いがありません。

ならばここは「はあ」の前に、等々力の呼びかけが一行、
元の原稿にはあったのではないでしょうか。

つまり、
一同の話の終わるのを待って等々力警部が発言した。
「金田一先生」
「はあ」
「ここに**秘蔵の『百唇譜』があるんです。」

という流れだったのではないでしょうか。


十四
こっちのほうへ何十メートル道路かがつくことになってるんですね

これは「何十メートルか道路が」の誤植ではないでしょうか。

もっとも、「100メートル道路」などという俗称で呼ばれる道路も実際にあるので、
このままで正しいのかもしれませんが、どうも不自然に感じます。


十八
会社員が渋谷でパイ一やって

会話では言葉をひっくり返して遊ぶことはよくあるので、
「パイ一」は意味としては「一杯」でしょうし、
この当時はこういう言い方が流行っていたのかもしれませんが、
これもひょっとしたら誤植ではないかという疑いが残りました。


『金田一耕助ファイル20 病院坂の首縊りの家(下)』


目次
第二編 直吉二度の 奇禍に怯えること
耕助鉄の小を譲られること」

この「鉄の小を」は、
本編では「鉄の小函を」となっていますので、明らかな脱字です。

また、「二度の 奇禍」にある空白も、
本編の見出しにはないので余計なものでしょう。


第七編 矢継ぎ早の殺人事件のこと
そのとき犯人といっしょだったが、すぐあとから追っかけてきた犯人によって、

この文章は矛盾しています。
ここで話者は
「そのとき被害者はすでに犯人と一緒にいた、あるいは、
犯人がすぐあとから追いかけてきた、そのいずれかであろう」
という推測を述べているのでしょうから
「いっしょだった」ではなく
「いっしょだった」であるべきです。


第十編 愚者耕助の罠に落ちること
等々力元警部はそのとき屋上の床からムクムクと起きがってきた。金田一耕助のほうへ駆け寄って、

これでは「起きがってきた」のは「等々力元警部」だということになってしまいますが、
その直前の描写では等々力は「跛をひいて」歩いており、
倒れたなどという描写はありません。

一方、その少し前で
金田一耕助がバッタリ倒れて、

とありますから、「起きがってきた」のは金田一のはずです。

したがって上記は「。」で終わらせるのではなく、
「、」で続けるのが正しいだろう、と思います。つまり、

等々力元警部はそのとき屋上の床からムクムクと起きがってきた、金田一耕助のほうへ駆け寄って、

とあるべきではではないでしょうか。


蝶々殺人事件 (「由利先生」シリーズ)


第九章 テナーの懊悩
「いい、そんなひまはありませんわ。先生がすばやくおかくしになったんですもの」

この「いい、」は常識的に見て
「いいえ、」「いえ、」の誤植だと思います。



最後に

これらは全て角川書店に連絡をし、返答も頂いています。

大部分は電子書籍化に伴う不手際ではなく、
紙の本とは一致していたようです。

中には私自身、穿ちすぎかと思うものもあるのですが、
明らかに誤植と思えるものがいくつも見つかると、
普通なら気にしないようなことまで「これも誤植ではないか」と疑ってしまいます。
少なくとも、上記の全てが現状のままで正しい、とは思えません。

ただ、印刷物の場合は、最低でも次の重版までは訂正の機会が無い上に、
作者が既に故人であり、著作権継承者との協議も必要だということなので、
すぐに訂正されることはないでしょう。

ある程度の読書好きなら経験があると思いますが、
「これはほぼ間違いなく誤植だろう」と思えるものに出くわすことは
そう珍しいことではありません。

しかし、これらの角川の横溝作品には、
こうした疑問のある部分が突出して多いように感じます。




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